眼内レンズにはどんな種類がありますか?
単焦点眼内レンズ (遠視・近視の矯正可能)保険適用
現在使用されている後房眼内レンズの原型は1984年本邦で認可されて以来、毎年膨大な数の白内障手術で使用されています。光学部の材質の主流はpolymethy lmethacrylate(PMMA)からアクリルへ移行していますが、いずれも長期間にわたる安定性が確認されており、今日まで30年以上に亘り世界中で最も多く使用されています。
単焦点眼内レンズは裸眼で一か所にピントが合うよう設計されたレンズですので、単焦点眼内レンズを挿入された場合、遠くにピントを合わせた場合には近用の、近くにピントを合わせた場合には遠用のメガネが必要になります(必要なら乱視矯正眼鏡も使用)。
眼内でのレンズ寿命は、これまでの眼内レンズ挿入眼で20~30年以上経過しても生前に 眼内レンズ劣化の為に摘出する必要が生じた例はほとんどないことから、半永久的と考えられています。術後、多少のレンズ偏位や、瞳孔の大きさの変化によっても見え方の質がほとんど変わらない等、多数の臨床実績により、実用性及び安全性が確立されたレンズと言えます。
※当院で採用しているのは、この単焦点眼内レンズのみです。
トーリック眼内レンズ (遠視・近視・乱視を矯正可能)保険適用
主に角膜乱視を水晶体位置で矯正することを目的として設計されたレンズです。手術前に器械的に得られたデータを基に、眼内レンズの球面矯正度数のみならず、乱視度数、乱視軸を計算し手術時に乱視軸を合わせて眼内に挿入されます。
術前に計算通りの術後度数が得られれば、単焦点眼内レンズより良好な裸眼視力が得られますが、乱視軸がずれたり、本来の視軸から外れて挿入された場合、単焦点眼内レンズ以上に、術後眼鏡での視力矯正は難しくなります。また角膜乱視の度と軸は年齢と共に多少変化して行きますが、術後何年も経過してから眼内レンズを交換することは困難です(初回よりもハイリスクな手術を必要とします)。
多焦点レンズ (遠視・近視・乱視を矯正し、遠くにも近くにも焦点がある)保険適用外
保険適用外であり、手術費用は片眼で数十万円と高額です。遠くと近くに焦点があるものや、遠くと中間距離と近くに焦点があり、同時に乱視が矯正できるタイプもあります。とはいえ、レンズ自体にピント調節能力はありませんので、若い頃の見え方を取り戻すことはできません。それは多焦点眼内レンズ特有の見え方であり、患者様の脳がその見え方に適応できるかどうかを術前に充分に予測することは不可能です。
また、眼鏡の装用機会は減ると云われていますが、仮に不満足な見え方であっても、レンズの性質上、眼鏡による矯正は困難であり、単焦点眼内レンズに交換するには初回手術より水晶体の周りの組織を傷めやすく、ずっとハイリスクな手術となります。
手術に使うレンズは自由に選ぶことができますか?
当科では、充分な安全性が確認されており、術後最も眼鏡矯正がしやすい、保険適用の単焦点眼内レンズのみを使用しています。どれくらいの距離が見やすくなるようにレンズ度数を設定するかは、医師と相談の上 選択可能です。
眼内レンズの度数は、どのように決めるのですか?
検査機器を用いて測定される眼のデータを基礎とし、様々な理論式を使って、最適と思われる眼内レンズ度数を算出していきます。計算式には光学的モデル眼から導かれた理論式と、理論式の1次近似で係数を実際の症例で得られた結果から回帰して求めた経験式とがあり、現在にいたるまでに様々な式が考案されています。
理論式の一例
経験式の一例
P = A - 2.5L - 0.9K
- P : 眼内レンズ度
- K : 角膜屈折力(角膜曲率半径)
- L : 眼軸長(眼の軸の長さ)
- C : 術後の前房深度(予測値)
- N : 房水・硝子体の屈折係数
- A : 眼内レンズ定数(眼内レンズのモデルごとにメーカーで定めた値)
使用する計算式によって必要な眼のデータは異なりますが、いずれの式を用いた場合でも術前に角膜屈折力(角膜曲率半径)と眼軸長(眼の軸の長さ)の測定が必要です。
近年、角膜屈折力(角膜曲率半径)は比較的安定して計測されるようになっていますが、術後の前房深度の正確な予測をたてる事は未だ困難で、誤差を含む予測値を利用せざるを得ません。
眼内レンズの算出式はあくまで理論式であり、使用される眼のデータにも予測値や誤差が含まれるため術後屈折誤差を0にすることは未だ困難です。特に進行した白内障や強度の屈折異常がある場合、通常よりも誤差が生じやすくなります。
当院では2016年より、非接触型の光学的眼軸長測定装置OA2000を導入しています。従来の超音波式眼軸長測定装置と比較して短時間でより精度の高い検査が可能で、より多くの眼情報を得ることができます。また、直接眼球に触れる必要がないため、更に安全な検査が可能となりました。
なぜ多焦点眼内レンズを採用しないのですか?
多焦点眼内レンズのメリット、デメリットを知ると、現時点においては、安全、安心の医療を推進する上で、最適な選択とは思われないからです。
多焦点眼内レンズのメリット
- 遠くも近くも(中間距離も)ほどほどによく見える。
- 眼鏡装用の機会が減る。
多焦点眼内レンズのデメリット
- 保険適用でないため、費用が高額である(レンズ価格のみでも両眼50~90万円程)
- 単焦点に比べてグレア(眩しさ)・ハロー(光の滲み)が起きやすい。⇒ 夜間の運転は危険
- コントラスト感度(光の明暗)が落ちる
- 単焦点眼内レンズよりやや暗く感じる
- 不満足な見え方であっても眼鏡による矯正が困難である(眼内レンズを交換する場合、最初の手術よりハイリスクな手術を行うこととなる)